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セフィデロコル耐性NDM-5メタロ-β-ラクタマーゼ産生大腸菌の国内分離例

(速報掲載日 2024/5/15)
 

セフィデロコルは、カルバペネム耐性腸内細菌目細菌(CRE)を含む薬剤耐性グラム陰性菌に幅広い抗菌活性を示し、2019年に米国、2020年に欧州そして本邦では2023年11月に承認されたβ-ラクタム系新規抗菌薬である1,2)。わが国とアジアで分離の多いIMP型やNDM型メタロ-β-ラクタマーゼ(MBL)を産生するCREに対しても単剤で抗菌活性を示し、その臨床効果が期待されている3)。5類全数把握疾患であるCRE感染症は、2017~2018年は3,949例が届出られ、患者より分離された2,549株が地方衛生研究所等で試験検査されている4)。国立感染症研究所(感染研)薬剤耐性研究センターはこのうち1,348株の提供を受け、メロペネムに耐性を示した449株(33%)についてセフィデロコルの薬剤感受性試験を実施したところ、117株の大腸菌のうち3株がセフィデロコル耐性を示したため、その概要を報告する。

2018年7月と8月、千葉県内の医療機関より海外渡航歴のない入院患者がCREによる尿路感染症(2例)と肺炎(1例)として届出された。千葉県衛生研究所において尿と喀痰から分離された3株がすべてNDM-5遺伝子保有大腸菌であることが確認された。

これら3株は感染研において自動細菌検査機器(Microscan Walkaway, ベックマン・コールター)およびドライプレート(栄研化学および塩野義製薬)を用いた微量液体希釈法にて各種薬剤感受性を測定した。セフィデロコルのみディスク拡散法(Mast Group)でも実施した。全ゲノム解読(WGS)はIllumina社のショートリードシーケンサーを用い、薬剤耐性遺伝子の検出、セフィデロコル耐性に関連する遺伝子変異の検索、Multilocus sequence typing(MLST)等の解析を行った。菌株同士の近縁性はパルスフィールドゲル電気泳動法(PFGE法)によるタイピング解析で評価した。

セフィデロコルの最小発育阻止濃度は3株とも>32μg/ml、ディスク拡散法での阻止円の直径は6mmと高度耐性を示した。さらに、すべてのβ-ラクタム系抗菌薬、レボフロキサシン、スルファメトキサゾール・トリメトプリムにも耐性であった()。1株を除きアミカシンにも耐性であったが、チゲサイクリンとコリスチンには3株すべてが感性であった。

WGS解析により、3株ともβ-ラクタマーゼ遺伝子としてblaNDM-5の他、blaCTX-M-65を保有し、セフィデロコル耐性に関与するとされる鉄輸送系関連遺伝子cirAのナンセンス変異とペニシリン結合タンパク(PBP)3の4アミノ酸(YRIN)挿入を認めた5,6)。また、アミカシン耐性の2株は、アミノグリコシド系抗菌薬に高度耐性を付与するメチラーゼ遺伝子rmtBを保有していた。

MLSTではすべてST 617であったが、PFGE法でのバンドパターンは類似していたものの、2または3バンドの差異を認め一致はしていなかった()。

セフィデロコルは、その構造からMBLを含むカルバペネマーゼに安定性が高く、かつ細菌の鉄輸送系を利用して効率的に細胞内に取り込まれ、標的であるPBPに結合することで高い抗菌活性を示すとされている1)。NDM型カルバペネマーゼの産生のみではセフィデロコル耐性とならず、本菌株で認められたcirAとPBP3の変異を併せ持つことが、大腸菌におけるセフィデロコル耐性機構の主要なものとして報告されている5–7)cirAやPBP3の変異は必ずしもセフィデロコルへの曝露に起因するものではないことが示唆されており、セフィデロコルが承認されていない中国からも、今回報告した3株と同様のセフィデロコル耐性NDM-5産生大腸菌が報告されている5)

約1カ月の間に同一保健所管内の医療機関で分離された同一STの3株であったが、薬剤耐性遺伝子の保有パターンが異なり、PFGE法でも数バンドの違いを認めたことから、探知される前に保菌者を介し潜在的に一定期間地域内で伝播していた可能性も考えられた。その後、2024年3月末現在まで当該医療機関含め同一保健所管内の医療機関から同様のCRE感染症の届出はない。

セフィデロコル耐性菌の出現を監視しその広まりを防ぐためには、適正使用に加え、特にカルバペネマーゼ産生菌に対してのセフィデロコル感受性試験と院内感染対策の確実な実施が必要と思われる。

 

参考文献
  1. Wang L, et al., Drug Resistance Updates 72: 101034, 2024
  2. 新規シデロフォアセファロスポリン系抗生物質製剤 「フェトロージャⓇ点滴静注用1g」の国内における製造販売承認取得について
    https://www.shionogi.com/jp/ja/news/2023/11/20231130.html
  3. 厚生労働省, 抗微生物薬適正使用の手引き 第三版 別冊, 2023
  4. IASR 40: 157-158, 2019
  5. Wang Q, et al., Microbiol Spectr 10: e0267021, 2022
  6. Wang C, et al., Front Pharmacol 13: 896971, 2022
  7. Kohira N, et al., J Glob Antimicrob Resist 22: 738–741, 2020
千葉県衛生研究所 
 中山孝子 安藤直史 菊池 俊
国立感染症研究所
 実地疫学研究センター
  佐々木 優 藤井英里 島田智恵 砂川富正
 薬剤耐性研究センター
  松井真理 稲嶺由羽 鈴木里和 菅井基行

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